meetup-4
「テクノロジーを使ったアート・エンタメ作品の展示・体験設計」
2024年10月6日、日本VR学会A+E研究委員会が主催するMeetup-4「テクノロジーを使ったアート・エンタメ作品の展示・体験設計」が、東京大学情報学環オープンスタジオとオンラインのハイブリッドで開催された。4回目の開催となるMeetup-4では、テクノロジーを活用したアートやエンタテインメント作品の展示・体験設計をテーマに、前半に講演と対談、後半に相談会が行われた。
本イベントの講演者として、NTTコミュニケーション科学基礎研究所人間情報研究部感覚インターフェース研究グループ特別研究員の安謙太郎氏と、プログラマおよびインタラクションデザイナである大島遼氏が登壇し、それぞれの活動における体験やインタラクション設計のアプローチについてご講演された。
はじめに安氏から、ご自身の研究紹介とともに、学会でのデモ発表における体験設計の手法について共有いただいた。安氏は、デモ発表の設計においてより多くの来場者に快い体験(=快)を提供することを重視しており、これを実現するための秘訣として「表デモと裏デモ」「0人目へのデモ」の二つを挙げられた。
1つ目の「表デモと裏デモ」は、技術の魅力やインタラクションの楽しさを体験者に提供する”表デモ”で体験の一番肝である気持ちの良い瞬間を体験させつつ、その技術の仕組みを理解させ、理解の快を提供する”裏デモ”も用意するというアプローチである。これらの二種類の快を体験してもらうことで、時間や人員などの制約の中でも複数の鑑賞者に同時に体験を提供できる。さらに、2つ目の秘訣として挙げられた「0人目へのデモ」は、デモ開始時に鑑賞者がいない場合でも自らデモを動かしながら体験を示すことで、最初の1人を引きつけ、更に来場者を呼び込むという手法である。安氏によると、この二つの秘訣を駆使し体験のループを繰り返すことで、より多くの人に快い体験を提供できるという。本イベントにおいても、磁場パターンを利用した形状提示インタフェース「MagneSwift」を実際に持参していただき、デモを実演された。
続いて、大島氏より、「応答なきインタラクション」をテーマに、展示空間における人工物や環境とのインタラクションのデザイン設計手法についてご講演いただいた。
2014年に制作されたインスタレーションの事例では、実際に公園のブランコに乗って撮影したカメラ映像を見ながら指をブランコの模型に置くことで、不安定な感覚を通してブランコに乗っている感覚を観客に想起させるという実験的なデザインが紹介された。この作品では、視覚情報と触運動情報の関係性を探る試みとして、物理的な応答がない状況でもインタラクションが成立することが示されている。続いて、山口情報芸術センターYCAMでのサイネージシステムの事例より、指をさす人をモチーフに進行方向の情報を生成する人の知覚システムを活用したインタラクション設計の紹介があった。さらに、3つ目の事例として、LEDマトリクスと木枠からなる「見ることは作ること `#`01」という作品における、時間によって初めて成立する形の探求について説明された。連続写真の技術を開発したマイブリッジと写実画家ジェリコーの例を引きながら、時間と形の関係性を作品に組み込み、どのようにコンセプトを言語化していくのか、そのプロセスを紹介していただいた。
その後の対談では、A+E研究委員会委員長の山岡潤一氏(慶應義塾大学)を加え、安氏と大島氏のインタラクションデザインにおけるアプローチの違いについて議論が交わされた。安氏は、ご自身の感覚を基に「0人目」として体験を設計し、研究者向けから一般向けに調整する手法を説明された。一方で大島氏は、内省的なインタラクションを重視し、様々な案を実際に作りながら進めていく中で、強い表現を選び出すプロセスについて語られた。参加者からの質問では、現象をインタラクションに昇華させる過程でのジャンプの乗り越え方が問われ、安氏は「3回ひねる」ことで現象から想像し得ない体験を作り出す手法を、大島氏は自分でも説明ができない偶発的な現象を発見することで新たな視点を得るという過程について共有された。
後半の相談会では、応募者4名の研究相談に対し、講演者や委員、他の参加者との議論が交わされた。アート表現を扱う事例でどのように評価をすべきかといった相談のほか、作品としての開発を進める中での更なる発展性を模索するとともに、研究として掘り下げて発表するための手法についての議論などが行われた。実際にデモ体験が可能なデバイスを持参し、講演者や委員に体験してもらいながらフィードバックを受ける参加者もいた。
本イベントでは、テクノロジーを活用した研究やアート作品におけるインタラクションデザインや体験設計の考え方が、様々な実事例とともに紹介された。テクノロジーとデザイン、アートの融合を模索する研究者にとって、ものと人との関わりを探るインタラクション設計をテーマとした本イベントは、非常に興味深いものとなっただろう。今後、参加者が本イベントで得た知見を活かし、新たなアプローチを展開していくことが期待される。
開催日時:
2024年10月6日(日) 13:00-17:30
主催者:
日本VR学会A+E研究委員会
参加者の属性、参加人数:
大学生・大学院生、大学関係者、企業関係者 49名(うち現地参加者24名)