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「研究思考とアート+エンタテインメント」

Reported by : 阪口紗季(東京都立大学・助教、A+E研究委員会・幹事)

2022年10月16日に、日本VR学会アート+エンタテインメント研究委員会主催で、Meetup-2「研究思考とアート+エンタテインメント」イベントを、東京大学情報学環オープンスタジオとオンラインのハイブリッドで開催した。

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Meetupイベントは今回で2回目となる。昨年開催した1回目では、制作物をどのように論文やアート作品として展開していけば良いか?がテーマであったのに対し、今回は「研究思考」を持ってアートやエンタテインメントの開発や表現活動や社会展開に取り組むことの意義について議論する場となった。

委員長の山岡 潤一氏(慶應義塾大学)によるオープニングでは、Meetupイベントの趣旨説明や、VR学会論文誌のアート+エンタテインメント特集号の投稿募集の案内、ゲスト講演者3名の紹介が行われた。

オープニングの後、本イベントのメイン企画である、ゲストによる講演が行われた。

1番目に、金 じょんひょん氏(博報堂)にご講演いただいた。

紙に鉛筆で字を書くときなどの筆記音を増幅させて、手書きする行為に自己主体感(やっている感)感じさせるプロダクトの開発や、現在企業で取り組まれている、聴いている音の違いによってビールのおいしさを増幅させるようなクロスモーダルに関する研究についてご紹介いただいた。

例え既存研究では実証されていなくとも、自分が「心地良い」「楽しい」と感じたことについて深く掘り下げ、それがどのような効果や価値を生み出すのかを追求するという研究思考についてお話しいただいた。

2番目に、齋藤 達也氏(慶應義塾大学)にご講演いただいた。

2枚の異なる絵柄が載っているカードを重ね合わせ、スライドさせると、カードには2つの絵柄が融合した結果が現れるという手品のような体験ができるプロダクトや、自分の指を置くことで初めて完成されるグラフィックなど、体験者が作用することで物理的な変化や意味合いが生まれ、達成感を味わえるような制作物や研究事例についてご紹介いただいた。

アウトプットのフォーマットをあえて決めずに制作に取り組むことによって表現の仕方を限定しないことや、誰もが面白いと感じる現象を確信した上で制作や研究を進めていること等の表現活動への取り組み方について共有していただいた。

3番目に、ソン ヨンア氏(法政大学)にご講演いただいた。

空気を入れることによって変形や動作が起こるアクチュエータの作り方を動画やワークショップで発信することで多数の体験者に作品を作ってもらう活動や、ぬか床と会話することで状態を把握できるようにするロボット、着なくなった服がメッセージを残して自殺する装置等を開発し、それらのユーザ体験について分析して論文化したことについてご紹介いただいた。

制作物や取り組み内容の評価の仕方として、既存の評価指標を用いることが必ずしも良いとは限らず、自分で評価指標を作ることも必要で、それを作る過程で自分が取り組んできたことの価値の軸が形成されるということについてお話しいただいた。

3名のゲストによる講演の後、パネルディスカッションの時間が設けられた。

制作物や研究成果をどのような手段で発信するか?プロダクトの価値を人に伝えるときに科学的根拠の有無はどれくらい影響があるか?自身が取り組んだことの価値を確信する瞬間とはどんなときか?といった聴講者から寄せられた質問について、それぞれのゲスト講演者の考え方をご回答いただいた。講演者間でも質問をし合ったり、それをきっかけに深い内容の意見交換が行われたりと、大変有意義なディスカッションの場となった。

イベント後半は、制作物についての相談を希望する参加者に対し、研究委員会のメンバーがアドバイス等をする相談会が行われた。

4名の相談希望者を2グループに分け、それぞれのグループで1人ずつ相談の時間が設けられた。

アート作品としての制作物のコンセプトを人に伝えるためにはどのように言語化して説明すればよいか、制作物の本質的な面白さはどこにあって、どのような文脈でその面白さは活きるのか、等々について活発な意見交換が行われた。

イベントの締めとしてクロージングが行われ、その後は現地参加者間での交流会が行われつつ和やかな雰囲気の中で解散となった。

このイベントが、アートやエンタテインメントを制作する人々の交流の場となり、それぞれの人にとっての制作活動の一助となる知識や気づきを提供できていれば幸いである。

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開催日時:
2022年10月16日(日) 13:00-16:20

主催者:
日本VR学会A+E研究委員会

参加者の属性、参加人数:
大学生・大学院生、大学関係者、企業関係者 57名(うち現地参加者 26名)